民事再生の基本原理

2022/04/17 14:32

銀行が債務カットに応じる理由

民事再生においてなぜ銀行は債務カットに応じるのでしょうか。

それは、この債務カットに応じなければ、さらに追加の損失が発生する可能性あり、それを防ぐためにやむなくカットに応じるということになります。

その追加の損失とは何でしょうか。

もし、その再生計画案に応じなければ、企業は破産となるのが通常です。
破産となると、事業を停止し、在庫や不動産を売却して債権者に配当します。
この破産の時の配当を、清算配当率、または、破産配当率、と呼びます。

一方で、企業、事業が再生すれば、将来の黒字を見込むなどして、「破産配当よりも高い配当をすることができます」と言える建付となります。

この企業再生時の配当率を、再生配当率などと呼びます。

すなわち、

清算配当率 < 再生配当率

ということが、一定程度見込めるのであれば、例え債務(債権)カットであっても、その再生計画案に応ずることが経済合理性がある、ということとなります。

この破産配当率よりも高い配当率を保障することを、清算配当率保障、といい、民事再生法のみならず、企業再生、事業再生一般の大原則となります。

ですので、再生計画案を示す時には、「仮に破産になったら弁済率はこの程度です」という清算配当率(破産配当率)を示し、それよりも有利な配当をするようにします。

清算配当率と再生配当率の差

清算配当率を0.001%でも超えればそれでいいのか?
という議論はありますが、法律上はそれで構いません。

ただし、「その程度の差であれば破産で結構」とか「合理的な企業価値の分は弁済してもらう計画でないと賛成しない」というスタンスの金融機関も、当然存在しますので、法律の枠だけでなく、債権者に納得してもらうだけの配当率を出す必要はあります。

評価方法その3

2022/04/07 13:20

はじめての財産評定

評価方法その3 / 固定資産

実務では不動産鑑定評価を取得することが多いですが、固定資産税評価額や相続税評価額を基礎とした時価推定価額を採用することもあります。鑑定費用、当該資産の重要性などから総合的に評価方法を判断します。

不動産鑑定の場合、特定価格を不動産鑑定士に算出してもらいます。
不動産の(民事再生手続における)特定価格は、早期売却価格のことです。
不動産鑑定基準 第1章4節Ⅱ*1

通常の鑑定価格は、正常価格と呼ばれ、実務では正常価格をまず算出してから、特定価格減価をして、特定価格を求めることがよく行われています。一般的には、正常価格の15%~30%OFFが多いです。

公認会計士も、不動産鑑定だから、と言って鵜呑みにすることはせず、きちんと読み込み、批判的な検討をした上で、財産評定に採用します。必要に応じて、鑑定士とディスカッションをすることもあります。

不動産鑑定を実施しない場合

土地
相続税路線価÷0.8
路線価がない地域は、固定資産税評価額÷0.7
とすることが多いです。

相続税路線価と固定資産税路線価は異なるものなので、混乱しないように注意しましょう。

相続税路線価は国税庁が毎年発表しており、時価相当額の80%を目処に評価していることを公表しています。

変形地等の修正をどこまでかけるかは議論があるところですが、相続税基本通達に沿って修正することが多いです。

一方、固定資産税評価は、総務省所管の固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続第1章土地 12節 経過措置の中で、基準地価や鑑定士価格の7割とすることが定められています*2
建物
建物について鑑定評価を取得しない場合には、物件や事案によって様々な方向があります。
例えば流通している他の同種不動産データからの類推や、固定資産税評価額を基礎とすることがあります。
建物の用途が住居(社宅、投資用不動産)であればいいのですが、工場となると、やはり不動産鑑定が必須となることが一般的です。
借地権
借地権は会計士を悩ますことが多いですが、相続税路線価に掲載されている借地権割合を使用することが多いでしょう。
ただし、そもそも借地契約の種類をきちんと確認して、借地権が発生するタイプかどうかなど、よく検討しないといけません。
中小企業だと社長個人不動産を会社に賃貸していることもあり、この場合は要注意です。

*1 : 民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合---この場合は、通常の市場公開期間より短い期間で売却されるという前提で、原則として比準価格と収益価格を関連づけ、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。なお、比較可能な事例資料が少ない場合は、通常の方法で正常価格を求めた上で、早期売却に伴う減価を行って鑑定評価額を求めることもできる。

*2 : 宅地の評価において、第3節二(一)3(1)及び第3節二(二)4の標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示法(昭和44年法律第49号)による地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとする。この場合において、不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用するに当たつては、全国及び都道府県単位の情報交換及び調整を十分に行うものとする。