経営者の自宅の守り方(民事再生、破産)

会社が民事再生手続の申立をした。

社長の自宅はどうなるのでしょうか。
非上場企業の社長は借入金に連帯保証していることがほとんどです。
会社が民事再生を申し立てて、債務カットに成功しても、連帯保証人の債務は自動的にカットされることはありません。

すると連帯保証人である社長に対して、金融機関から一括弁済を求められます。
しかし、会社が追う債務を全額返せるだけの資産を社長が持っていれば、そもそも会社の民事再生手続を申し立てることもないでしょう。

全額返せなければ、自宅を売却しなければならないのか。
教科書通りに言えば、そうなりますが、どうにかして守る方法はあります。
  1. 経営者保証ガイドラインの利用
  2. 親族、知人に買い取ってもらい住み続ける
民事再生法には、住宅を守るための特則があるのですが、住宅ローンを除く、無担保債務の総額が5000万円以下でないと利用できません。5000万円には、連帯保証額を含みます。なので、経営者の場合は、使えないことが多いです。

経営者保証ガイドラインって、法律なの?

正式には、経営者保証に関するガイドラインと呼ばれ、法律ではなく、「中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則」です。(経営者保証に関するガイドラインの前書より)

つまり、金融機関の業界で定めた自主ルールであって、法律ではないので強制力はありません。
ただし、ガイドラインに定められていることは、経営者の再起や生活のための合理的な要素で構成されているので、このガイドラインに従って処理すれば、多くの金融機関の了解をとれる可能性が高いです。

ガイドラインを策定した研究会の座長は弁護士の小林信明先生、大御所です。
銀行の監督官庁である金融庁もガイドラインの積極活用のPRをしています。

そして、ガイドラインには、社長の自宅を残してもよい場合が定められているのです。

自宅を残す条件

①誠実性
②経済合理性
③華美でない自宅

となります。(わかりやすさを優先して記載しています)。

①の誠実性は、"不正、不誠実なことはやっていませんよね"ということです。
不正といっても、単に粉飾決算をやっていたとか、接待交際費が多い、とかそういうことではなく、会社の財産を不正に個人に移しているとか、個人財産をすべて開示しないとか、それなりにひどい場合です。

ただ、どこまでが許せて、どこからが許せない不正かは、明確な線引きができるものではありません。
白黒なのでなく、どこまでもグレーで、かつ、総合的な評価となります。

なので、専門家によく相談することが大事です。

②の経済合理性は、「早めに会社の民事再生手続を申し立てたから、金融機関の回収は、破産に比べれば多かったですよね。もし早めに決断しなかったら破産となり、もっと回収は低かったですよね。」ということが基本となります。
実際はこれだけではありませんし、ケースバイケースでもあるので、これも専門家とよく相談しましょう。

③の華美でない自宅も、グレーなもので、地域性もあります。
事案によるので、専門家とよく協議しましょう。

その他の条件

④個人からの分割弁済

条件が整えば自宅を残せるといっても、保証債務の弁済を個人がする必要があります。もちろん、全額は無理なので、今後5年程度で、収入から返せるだけの弁済を実施する必要はあります。

また、自宅に保証している銀行の抵当権(担保権)がついている場合には、自宅の時価相当についても、長期分割弁済をする必要があります。

また、住宅ローンが残っている場合や、状況によって、金融機関の判断も変わるため、適切な専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

⑤専門家の関与

ガイドラインでは、外部専門家の関与を必要としています。
経営者個人だけで金融機関相手にガイドラインの適用を主張するのは無理があります。

それだけ私ども専門家は金融機関から一定の信頼がある、ということです。

専門家への相談は早ければ早いほど、結果がよくなる可能性が高くなります。
ちゃんと数字のことを相談できる専門家に早めに相談しましょう。
それで非常事態にならなければ、それはそれでよいのですから。