はじめての財産評定

2022/03/25 14:08

<公認会計士向け 民事再生法の財産評定>

帳簿との関連性

民事再生法の財産評定は、帳簿外で実施します。
民事再生法上の財産評定は、会社帳簿に反映することはありません。ここが会社更生手続と異なるところです。

※民事再生法上の"帳簿"と会社法上の"帳簿"は、異なるという理解のほうがよいかも知れません。
 
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財産評定の基準日

民事再生手続の開始決定日が基準となります。民事再生法第124条(財産の価額の評定等)

裁判所が発行する開始決定書には、開始決定をした時間が記載されるのが通例です。
会計帳簿上は、"日"で締めることはあっても、"時間"で締めることはありませんので、会計士としては戸惑うところです。

通常、開始決定の時間が午前の早めであれば、前日締め、午後であれば当日締めとして処理します。
時間によって重要な取引の調整が必要であれば、調整をします。

現在の東京地裁の運用では、午後5時に発出されることが多いので、ほとんどが当日締めの数字となります。

棚卸

開始決定日で実地棚卸をすべき、というのは理論上のお話で、現実には無理なことも多いです。
直近の棚卸実績に受払を加えて、棚卸資産の帳簿価格とすることも多いです。
ここでいう帳簿価格は、会社帳簿ではなく*1、民事再生手続上の"帳簿"と理解してください。

直近の棚卸が前期末で11ヶ月前なんですけど,,,という相談を受けることもありますが、開始決定日現在の残高が、合理的に算定できるのであれば問題ありませんし、状況によりますので、監督委員補助者の会計士とよく相談をしましょう。

締め作業

  1. 基準日で仮決算を実施し、"帳簿"価格*1を確定させる
  2. 評定作業
という順番となります。PLを作成する必要はなく、BSのみで大丈夫です。

一方、会計システムの多くは月次決算はできても、月の途中での締め作業が仕様として不可能なことが多いです。実務では、システムデータベースのコピーをとり、それを民事再生作業として利用することが多いです。そうすれば、開始決定日までの仕訳を入力することで、月次決算すれば、数字上は開始決定日現在の試算表を作成することができます。

領収証、請求書

取引を大きく3つにわける必要があります。
  1. 申立前日以前の取引
  2. 申立日から開始決定(時間)までの取引
  3. 開始決定以降の取引
これらがわかるように、取引先(仕入先、外注先)には、請求書をわけていただくようご協力を依頼するのが通常です*2

取引先によっては、請求書を分割するのが事務的に困難ということもあります。その際には、請求書はいままで通りでもよいけれど、上記1~3の区別がわかるようメモを添えていただくようにします。

1は再生債権となりカット対象。
2は共益債権かの処理をすることで、共益債権(全額払う)。
3は共益債権なので、全額払う

ということとなります。

開始決定は時間によってしまうので、実務でこれを厳密に区分けするのは無理があることもあります。
この点は、いずれにしても共益債権として全額払うこととなるので、法的に支障のない範囲で簡易な処理もありうるところです。

評価方法に続く

*1 : 会社帳簿に民事再生の財産評定作業は反映させない

*2 : 請求書を分割すること自体は法定の要件ではありません。