検索条件
企業再生時(事業再生)には、税務の特則があります。
企業再生においては、債務免除がなされることが多く、原則として、その債務の免除益は、税務上の益金(収入)として課税の対象となります。
債務免除益は多額になる場合が多く、これを原則のまま課税すると多額の税金が発生し、事業再生、企業再生を妨げることとなります。また、そもそも、債務全額を払うだけの収益性、財務の健全性がないからこそ債務免除を受けるのですから、そこに担税力を見いだすことは困難です。
一方で、単純に、"債務免除益は課税対象外"とすると、制度を悪用したり、現実に即さない場合もありますので、①資産の評価損失、②期限切れ欠損金の利用、という特則を設けることで、債務免除益を吸収しやすくする税務政策となっています。
したがって、債務免除がすべて非課税になる、ということではなく、債務免除にぶつける損失(繰越欠損金含む)を幅広く認めることで、企業再生に支障がなるべくでないような設計となっています。
会社更生手続、民事再生手続などの法的整理はもちろん、私的整理手続も一定の条件を満たせば、適用可能となっています。
理解のためには、民事再生手続での税制を把握し、それを他に応用するのがよいかと思います。
民事再生においてなぜ銀行は債務カットに応じるのでしょうか。
それは、この債務カットに応じなければ、さらに追加の損失が発生する可能性あり、それを防ぐためにやむなくカットに応じるということになります。
その追加の損失とは何でしょうか。
もし、その再生計画案に応じなければ、企業は破産となるのが通常です。
破産となると、事業を停止し、在庫や不動産を売却して債権者に配当します。
この破産の時の配当を、清算配当率、または、破産配当率、と呼びます。
一方で、企業、事業が再生すれば、将来の黒字を見込むなどして、「破産配当よりも高い配当をすることができます」と言える建付となります。
この企業再生時の配当率を、再生配当率などと呼びます。
すなわち、
清算配当率 < 再生配当率
ということが、一定程度見込めるのであれば、例え債務(債権)カットであっても、その再生計画案に応ずることが経済合理性がある、ということとなります。
この破産配当率よりも高い配当率を保障することを、清算配当率保障、といい、民事再生法のみならず、企業再生、事業再生一般の大原則となります。
ですので、再生計画案を示す時には、「仮に破産になったら弁済率はこの程度です」という清算配当率(破産配当率)を示し、それよりも有利な配当をするようにします。
清算配当率を0.001%でも超えればそれでいいのか?
という議論はありますが、法律上はそれで構いません。
ただし、「その程度の差であれば破産で結構」とか「合理的な企業価値の分は弁済してもらう計画でないと賛成しない」というスタンスの金融機関も、当然存在しますので、法律の枠だけでなく、債権者に納得してもらうだけの配当率を出す必要はあります。
実務では不動産鑑定評価を取得することが多いですが、固定資産税評価額や相続税評価額を基礎とした時価推定価額を採用することもあります。鑑定費用、当該資産の重要性などから総合的に評価方法を判断します。
不動産鑑定の場合、特定価格を不動産鑑定士に算出してもらいます。
不動産の(民事再生手続における)特定価格は、早期売却価格のことです。
不動産鑑定基準 第1章4節Ⅱ
通常の鑑定価格は、正常価格と呼ばれ、実務では正常価格をまず算出してから、特定価格減価をして、特定価格を求めることがよく行われています。一般的には、正常価格の15%~30%OFFが多いです。
公認会計士も、不動産鑑定だから、と言って鵜呑みにすることはせず、きちんと読み込み、批判的な検討をした上で、財産評定に採用します。必要に応じて、鑑定士とディスカッションをすることもあります。
相続税路線価÷0.8
路線価がない地域は、固定資産税評価額÷0.7
とすることが多いです。
相続税路線価と固定資産税路線価は異なるものなので、混乱しないように注意しましょう。
相続税路線価は国税庁が毎年発表しており、時価相当額の80%を目処に評価していることを公表しています。
変形地等の修正をどこまでかけるかは議論があるところですが、相続税基本通達に沿って修正することが多いです。
一方、固定資産税評価は、総務省所管の固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続第1章土地 12節 経過措置の中で、基準地価や鑑定士価格の7割とすることが定められています。
建物について鑑定評価を取得しない場合には、物件や事案によって様々な方向があります。
例えば流通している他の同種不動産データからの類推や、固定資産税評価額を基礎とすることがあります。
建物の用途が住居(社宅、投資用不動産)であればいいのですが、工場となると、やはり不動産鑑定が必須となることが一般的です。
借地権は会計士を悩ますことが多いですが、相続税路線価に掲載されている借地権割合を使用することが多いでしょう。
ただし、そもそも借地契約の種類をきちんと確認して、借地権が発生するタイプかどうかなど、よく検討しないといけません。
中小企業だと社長個人不動産を会社に賃貸していることもあり、この場合は要注意です。
ここは公認会計士であっても、はじめて財産評定する時には誤ったり、迷う部分があるところです。
「売掛金は法的に確定した債権だから、原則として100%入金されるよね」と考えがちですが、これは間違っています。
破産管財の実務に携われば理解できることですが、売掛金が100%回収できることはむしろ希です。
多くの会社が、以下の理由で支払を拒むか、減額要求してきます。
- 買った製品のアフターサービスがないのだから、従前の価格で買えるわけない。減額する。
- 今後の製品供給がないのであるから、うちのクライアントにも迷惑がかかる。代替品をみつけるまでの損失分を減額する(継続的供給義務違反)。
- そっち(再生会社)が倒産したおかげで、部品調達が滞り、追加コストがかかったから減額する
- 同上理由で、こちらのクライアントへの納期が遅れ、損害がでたのでその分減額する
- 他にも様々な理由が考えられます。
これらは、"法的には通用しない理屈"であっても、主張されることが多いです。
そして、法的には通用しない理屈でも経済的に通用する理屈であれば、破産管財人としては折れざるを得ない局面がよくあります。(特に破産手続における相殺主張には一定の制限があるにもかかわらず、法的に無理筋の相殺をしてくる先もあります。)
もちろん、管財人がそのような主張を突っぱねて回収を図ることも、もちろんありますが、それには訴訟の手間暇も時間もかかり、早期に解決したほうが、破産債権者全体のためには合理的なこともあります。
破産管財人としては、ガチで争うよりは、法的にはともかく経済的には一理あるのだから、一定程度の減額に応じて、早期回収したほうがよい、という判断が実務ではよく見られるところです。
法的な権利はともかく、実際の回収現場でそうなっている以上、それを斟酌して評価します。
一般的には3割減までは、許容されるレベルです。
ただし誤解していただきたくないのは、それぞれの会社には固有の状況があるので、それらは十分に検討しないといけないということです。
例えば、破産となっても、売掛先がきちんと払ってくれるような先、例えば、一般小売りの場合のクレジット-カード会社などは、手数料は差し引かれるものの、ほぼ100%入ってくることもあります。
結果的に、売掛金の評価が、30%~70%程度になることは、珍しくありません。
これは、破産となった場合のシミュレーションですから、より説得的な理由付けをすることが大事です。
財産評定を実施する時に、過去の粉飾決算として残っていた売掛金の処理に迷うこともありますが、原則として、再生手続帳簿の段階ですべて修正しておき、帳簿上は架空の売掛金はないようにすることが多いです。
実在はするけれど、回収可能性が低く、それが合理的に見積もれるものは、当該見積額とします。
帳簿上は計上しておき、評価で下げることととなります。
売掛先が破産などしてれば、一応当該管財人に問い合わせるなどして状況を確認することもありますし、長期間未収で会社と連絡が取れないような場合はゼロ評価とします。
評価方法その3に続く
民事再生手続上の評定基準は、「財産を処分するものとして」評定することが求められています。
民事再生規則第56条(価額の評定の基準等・法第百二十四条)
これは、民事再生手続ではなく、破産等により、債務者(会社)の協力が得られない状況で、早期に売却する、早期処分価格、と解されています。
雑にいえば、バッタ価格、バルク価格、倒産品価格、ということになります(雑に言っています)。
では、評価においてよく問題となる事項をみていきましょう。
できれば、民事再生法経理実務ハンドブックを一読したほうがいいですが、古い本なので、あまり信用しすぎないようにしましょう。
これは在庫の種類によって、かなり評価が異なります。
最近は、在庫の評価会社もいくらかありますが、コストもかかりますし、民事再生手続において利用されることは少ないようには思います。
「破産会社の食品の特売をやります。いくらなら買いたいですか。しかも一般売りではなく、一括でのバルク売りです」
ということになります。
生産食品なら、まずゼロに近い評価。冷凍食品であれば、いくらか値はつくかも知れませんが、その食品が原因で食中毒が起きても管財人は責任をとってくれないですので、相応に低くなります。
またロットの大きさの問題もあるでしょう。開始決定日現在で、資金がなければ、冷凍庫の電源を切らざるを得ないかも知れず、そうした場合にはもっと低くなるでしょう。
いくらかの値がつくとしても、破産会社の食品はトレーサビリティが担保されないし、管財人の瑕疵担保免責で売却するでしょうから、かなり低い評価となります。
一番よいのは、業界内で破産品の売買情報があれば一番利用しやすいです。
それがない場合には、いろいろ工夫はあるのですが、あまりに事例によることが多いので、ここでの言及は差し控えます。ご質問ある方は、ご連絡ください。
特定のメーカーに納める部品などは、ある程度で売れるかも知れませんが、その製品の特殊性、代替品の有無、これまでの事例などで、個別に評価していく必要があります。
工場や営業の現場の話をよく聞く必要があるでしょう。
これも進捗度によって異なる場合もあるし、一括での低い評価となる場合もあります。
特殊な技術なく、あと少しで完成という場合なら、一定の高め評価かも知れませんが、進捗度が低いと、材料としても売れず、完成されるにもコストがかかりすぎるということであれば、マイナスとなり、評価ゼロで、処分費用を見積もる、ということも珍しくありません。
仕掛品同様ですが、進捗度を加味することが多いです。
通常通りの仕上がりであればいいですが、引き取るほうとしては、仮に製品に欠陥や瑕疵があった場合に、破産管財人は責任とってくれませんので、やはり通常の評価よりは低くなるでしょう。
評価方法その2に続く
民事再生法の財産評定は、帳簿外で実施します。
民事再生法上の財産評定は、会社帳簿に反映することはありません。ここが会社更生手続と異なるところです。
※民事再生法上の"帳簿"と会社法上の"帳簿"は、異なるという理解のほうがよいかも知れません。
本ホームページは泉会計事務所/泉範行公認会計士事務所が運営しています。
民事再生手続の開始決定日が基準となります。民事再生法第124条(財産の価額の評定等)
裁判所が発行する開始決定書には、開始決定をした時間が記載されるのが通例です。
会計帳簿上は、"日"で締めることはあっても、"時間"で締めることはありませんので、会計士としては戸惑うところです。
通常、開始決定の時間が午前の早めであれば、前日締め、午後であれば当日締めとして処理します。
時間によって重要な取引の調整が必要であれば、調整をします。
現在の東京地裁の運用では、午後5時に発出されることが多いので、ほとんどが当日締めの数字となります。
開始決定日で実地棚卸をすべき、というのは理論上のお話で、現実には無理なことも多いです。
直近の棚卸実績に受払を加えて、棚卸資産の帳簿価格とすることも多いです。
ここでいう帳簿価格は、会社帳簿ではなく、民事再生手続上の"帳簿"と理解してください。
直近の棚卸が前期末で11ヶ月前なんですけど,,,という相談を受けることもありますが、開始決定日現在の残高が、合理的に算定できるのであれば問題ありませんし、状況によりますので、監督委員補助者の会計士とよく相談をしましょう。
- 基準日で仮決算を実施し、"帳簿"価格を確定させる
- 評定作業
という順番となります。PLを作成する必要はなく、BSのみで大丈夫です。
一方、会計システムの多くは月次決算はできても、月の途中での締め作業が仕様として不可能なことが多いです。実務では、システムデータベースのコピーをとり、それを民事再生作業として利用することが多いです。そうすれば、開始決定日までの仕訳を入力することで、月次決算すれば、数字上は開始決定日現在の試算表を作成することができます。
取引を大きく3つにわける必要があります。
- 申立前日以前の取引
- 申立日から開始決定(時間)までの取引
- 開始決定以降の取引
これらがわかるように、取引先(仕入先、外注先)には、請求書をわけていただくようご協力を依頼するのが通常です。
取引先によっては、請求書を分割するのが事務的に困難ということもあります。その際には、請求書はいままで通りでもよいけれど、上記1~3の区別がわかるようメモを添えていただくようにします。
1は再生債権となりカット対象。
2は共益債権かの処理をすることで、共益債権(全額払う)。
3は共益債権なので、全額払う
ということとなります。
開始決定は時間によってしまうので、実務でこれを厳密に区分けするのは無理があることもあります。
この点は、いずれにしても共益債権として全額払うこととなるので、法的に支障のない範囲で簡易な処理もありうるところです。
評価方法に続く
プロの方ならご存じでしょう。事業譲渡にも状況によって様々な種類があることを。
ここでは、民事再生から離れて、破産手続申立前の事業譲渡についての話です。
多額の公租公課債権があること等で、事業継続型の手続を選択できない場合、破産前に事業譲渡をして事業を生かす方法があります。
続きを読む