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ここは公認会計士であっても、はじめて財産評定する時には誤ったり、迷う部分があるところです。
「売掛金は法的に確定した債権だから、原則として100%入金されるよね」と考えがちですが、これは間違っています。
破産管財の実務に携われば理解できることですが、売掛金が100%回収できることはむしろ希です。
多くの会社が、以下の理由で支払を拒むか、減額要求してきます。
- 買った製品のアフターサービスがないのだから、従前の価格で買えるわけない。減額する。
- 今後の製品供給がないのであるから、うちのクライアントにも迷惑がかかる。代替品をみつけるまでの損失分を減額する(継続的供給義務違反)。
- そっち(再生会社)が倒産したおかげで、部品調達が滞り、追加コストがかかったから減額する
- 同上理由で、こちらのクライアントへの納期が遅れ、損害がでたのでその分減額する
- 他にも様々な理由が考えられます。
これらは、"法的には通用しない理屈"であっても、主張されることが多いです。
そして、法的には通用しない理屈でも経済的に通用する理屈であれば、破産管財人としては折れざるを得ない局面がよくあります。(特に破産手続における相殺主張には一定の制限があるにもかかわらず、法的に無理筋の相殺をしてくる先もあります。)
もちろん、管財人がそのような主張を突っぱねて回収を図ることも、もちろんありますが、それには訴訟の手間暇も時間もかかり、早期に解決したほうが、破産債権者全体のためには合理的なこともあります。
破産管財人としては、ガチで争うよりは、法的にはともかく経済的には一理あるのだから、一定程度の減額に応じて、早期回収したほうがよい、という判断が実務ではよく見られるところです。
法的な権利はともかく、実際の回収現場でそうなっている以上、それを斟酌して評価します。
一般的には3割減までは、許容されるレベルです。
ただし誤解していただきたくないのは、それぞれの会社には固有の状況があるので、それらは十分に検討しないといけないということです。
例えば、破産となっても、売掛先がきちんと払ってくれるような先、例えば、一般小売りの場合のクレジット-カード会社などは、手数料は差し引かれるものの、ほぼ100%入ってくることもあります。
結果的に、売掛金の評価が、30%~70%程度になることは、珍しくありません。
これは、破産となった場合のシミュレーションですから、より説得的な理由付けをすることが大事です。
財産評定を実施する時に、過去の粉飾決算として残っていた売掛金の処理に迷うこともありますが、原則として、再生手続帳簿の段階ですべて修正しておき、帳簿上は架空の売掛金はないようにすることが多いです。
実在はするけれど、回収可能性が低く、それが合理的に見積もれるものは、当該見積額とします。
帳簿上は計上しておき、評価で下げることととなります。
売掛先が破産などしてれば、一応当該管財人に問い合わせるなどして状況を確認することもありますし、長期間未収で会社と連絡が取れないような場合はゼロ評価とします。
評価方法その3に続く
民事再生手続上の評定基準は、「財産を処分するものとして」評定することが求められています。
民事再生規則第56条(価額の評定の基準等・法第百二十四条)
これは、民事再生手続ではなく、破産等により、債務者(会社)の協力が得られない状況で、早期に売却する、早期処分価格、と解されています。
雑にいえば、バッタ価格、バルク価格、倒産品価格、ということになります(雑に言っています)。
では、評価においてよく問題となる事項をみていきましょう。
できれば、民事再生法経理実務ハンドブックを一読したほうがいいですが、古い本なので、あまり信用しすぎないようにしましょう。
これは在庫の種類によって、かなり評価が異なります。
最近は、在庫の評価会社もいくらかありますが、コストもかかりますし、民事再生手続において利用されることは少ないようには思います。
「破産会社の食品の特売をやります。いくらなら買いたいですか。しかも一般売りではなく、一括でのバルク売りです」
ということになります。
生産食品なら、まずゼロに近い評価。冷凍食品であれば、いくらか値はつくかも知れませんが、その食品が原因で食中毒が起きても管財人は責任をとってくれないですので、相応に低くなります。
またロットの大きさの問題もあるでしょう。開始決定日現在で、資金がなければ、冷凍庫の電源を切らざるを得ないかも知れず、そうした場合にはもっと低くなるでしょう。
いくらかの値がつくとしても、破産会社の食品はトレーサビリティが担保されないし、管財人の瑕疵担保免責で売却するでしょうから、かなり低い評価となります。
一番よいのは、業界内で破産品の売買情報があれば一番利用しやすいです。
それがない場合には、いろいろ工夫はあるのですが、あまりに事例によることが多いので、ここでの言及は差し控えます。ご質問ある方は、ご連絡ください。
特定のメーカーに納める部品などは、ある程度で売れるかも知れませんが、その製品の特殊性、代替品の有無、これまでの事例などで、個別に評価していく必要があります。
工場や営業の現場の話をよく聞く必要があるでしょう。
これも進捗度によって異なる場合もあるし、一括での低い評価となる場合もあります。
特殊な技術なく、あと少しで完成という場合なら、一定の高め評価かも知れませんが、進捗度が低いと、材料としても売れず、完成されるにもコストがかかりすぎるということであれば、マイナスとなり、評価ゼロで、処分費用を見積もる、ということも珍しくありません。
仕掛品同様ですが、進捗度を加味することが多いです。
通常通りの仕上がりであればいいですが、引き取るほうとしては、仮に製品に欠陥や瑕疵があった場合に、破産管財人は責任とってくれませんので、やはり通常の評価よりは低くなるでしょう。
評価方法その2に続く
民事再生法の財産評定は、帳簿外で実施します。
民事再生法上の財産評定は、会社帳簿に反映することはありません。ここが会社更生手続と異なるところです。
※民事再生法上の"帳簿"と会社法上の"帳簿"は、異なるという理解のほうがよいかも知れません。
本ホームページは泉会計事務所/泉範行公認会計士事務所が運営しています。
民事再生手続の開始決定日が基準となります。民事再生法第124条(財産の価額の評定等)
裁判所が発行する開始決定書には、開始決定をした時間が記載されるのが通例です。
会計帳簿上は、"日"で締めることはあっても、"時間"で締めることはありませんので、会計士としては戸惑うところです。
通常、開始決定の時間が午前の早めであれば、前日締め、午後であれば当日締めとして処理します。
時間によって重要な取引の調整が必要であれば、調整をします。
現在の東京地裁の運用では、午後5時に発出されることが多いので、ほとんどが当日締めの数字となります。
開始決定日で実地棚卸をすべき、というのは理論上のお話で、現実には無理なことも多いです。
直近の棚卸実績に受払を加えて、棚卸資産の帳簿価格とすることも多いです。
ここでいう帳簿価格は、会社帳簿ではなく、民事再生手続上の"帳簿"と理解してください。
直近の棚卸が前期末で11ヶ月前なんですけど,,,という相談を受けることもありますが、開始決定日現在の残高が、合理的に算定できるのであれば問題ありませんし、状況によりますので、監督委員補助者の会計士とよく相談をしましょう。
- 基準日で仮決算を実施し、"帳簿"価格を確定させる
- 評定作業
という順番となります。PLを作成する必要はなく、BSのみで大丈夫です。
一方、会計システムの多くは月次決算はできても、月の途中での締め作業が仕様として不可能なことが多いです。実務では、システムデータベースのコピーをとり、それを民事再生作業として利用することが多いです。そうすれば、開始決定日までの仕訳を入力することで、月次決算すれば、数字上は開始決定日現在の試算表を作成することができます。
取引を大きく3つにわける必要があります。
- 申立前日以前の取引
- 申立日から開始決定(時間)までの取引
- 開始決定以降の取引
これらがわかるように、取引先(仕入先、外注先)には、請求書をわけていただくようご協力を依頼するのが通常です。
取引先によっては、請求書を分割するのが事務的に困難ということもあります。その際には、請求書はいままで通りでもよいけれど、上記1~3の区別がわかるようメモを添えていただくようにします。
1は再生債権となりカット対象。
2は共益債権かの処理をすることで、共益債権(全額払う)。
3は共益債権なので、全額払う
ということとなります。
開始決定は時間によってしまうので、実務でこれを厳密に区分けするのは無理があることもあります。
この点は、いずれにしても共益債権として全額払うこととなるので、法的に支障のない範囲で簡易な処理もありうるところです。
評価方法に続く
会社更生手続と民事再生手続の主な違いは以下の通りです。
民事再生法では、担保権者は別除権者と呼ばれ、民事再生手続とは「別」に「除」かれた「者」として、再生手続が開始していても、その権利を行使することができます。
つまり、担保権を設定している債権者は、その担保権の時価までの回収は約束されていることとなります。(実際には、いろいろ交渉はしますが、法的な権利として妨げられない、ということです。)
税金も、再生手続とは別に行使可能であり、カット対象になりません。
労働債権、いわゆる未払給与、退職金もカット対象になりません。
一方で会社更生法では、担保権者も優先債権者も手続に取り込みます。
会社更生手続が開始されれば、担保権者も個別の権利行使ができなくなり、更生計画の中で弁済を受けることとなります。他の一般債権者グループと分けられ、担保権者グループの中で、担保権者が議決権を行使します。一般債権者ほどカットはされないにしても、民事再生手続よりは回収が少なくなるのが一般的です。
税金、社会保険料も、理論的にはカット可能ですが、一般的にはカット対象とはならないことが多いです。ただし、個別の権利行使をストップさせれるので、更生手続中は、滞納処分と呼ばれる、強制的な回収行動が制限されます。
従業員の未払給与、一般債権ほどではないにせよ、退職金もカット対象になりえます。
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過大投資、営業赤字など、事業のしくじりによって銀行借入が増加し、なかなか返す目処がたたない。
今後の事業の見通しについて、営業黒字がでる見込みであれば、ちゃんとした法律を使って借入金等を大幅にカットして立ち直る方法があります。
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民事再生、会社更生、破産、私的整理、ADR。。。。
いわゆる倒産手続にも様々種類があります。
精通した法律家、公認会計士に相談しよう、それはもちろん大事です。
しかし、この手続選択は、これがベスト!これ以外ない!、ということはなく、それぞれ、メリットデメリットがあるもので、価値観によって選択肢は変わってきます。
倒産手続選択はビジネスジャッジであり、法的判断ではないのです。
例えばですが、(状況によってメリットデメリットが反対になることもあります)
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(破産手続開始の原因)
第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
(法人の破産手続開始の原因)
第十六条 債務者が法人である場合に関する前条第一項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」とする。
2 前項の規定は、存立中の合名会社及び合資会社には、適用しない。
民事再生法第21条(再生手続開始の申立て)
(事業譲渡等の承認等)
第四百六十七条 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
一 事業の全部の譲渡
二 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)
二の二 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
三 他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け
四 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約
五 当該株式会社(第二十五条第一項各号に掲げる方法により設立したものに限る。以下この号において同じ。)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、イに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く。
イ 当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
ロ 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
2 前項第三号に掲げる行為をする場合において、当該行為をする株式会社が譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、取締役は、同項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。
民事再生法第43条(事業等の譲渡に関する株主総会の決議による承認に代わる許可)
会社が民事再生手続の申立をした。
社長の自宅はどうなるのでしょうか。
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プロの方ならご存じでしょう。事業譲渡にも状況によって様々な種類があることを。
ここでは、民事再生から離れて、破産手続申立前の事業譲渡についての話です。
多額の公租公課債権があること等で、事業継続型の手続を選択できない場合、破産前に事業譲渡をして事業を生かす方法があります。
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